【太陽光発電事業】
~前回の続き~
前回まで損益通算を悪用するような太陽光発電事業を紹介してきましたが、それは全体の一部であり、ほとんどは本来のきちんとした太陽光発電事業です。
きちんとした太陽光発電事業の一つである、2012年のO社の事業を紹介します
太陽光発電導入のメリットと題して①節税効果※1、②2012年7月から発電の全量買取制度※2が開始されることを紹介しています。
スキームの全体像は、投資資金を償却を通じて節税し、かつ、全量買取制度により安定的に売電収入を得るというものです。
そして、O社の事業計画は投資資金の全額回収に約20年を想定しています。また、O社以外の数ある太陽光発電事業スキームの中でも比較的よく計算された計画であると認められます※3。
私は、このような太陽光発電事業であれば、事業所得に該当すると判断します。
理由は、営利性です。
私は、損益通算を利用した租税回避目的の太陽光発電事業は損失を求めているために、そこに営利性を認めることはできません。しかし、O社の太陽光発電事業は事業計画には節税を考慮にいれず、純粋に投下資本回収余剰を目的としていて、社会通念上それは事業であると判断します。
ところで、資源エネルギー庁が事業所得該当性についてパブコメを発表しました※4。
・出力50kwh以上
・土地の上に設備を設置した場合で当該設備の周囲にフェンス等を設置している
・土地の上に設備を設置した場合で当該設備の周囲の除草や当該設備に係る除雪等を行っている
・建物の上に設備を設置した場合で当該設備に係る除雪等を行っている
・賃貸した建物や土地の上に設備を設置している
もちろん、これは資源エネルギー庁の基準であり、所得税法の事業所得に該当するか否かを左右する決定的な基準ではありません。あくまで、事業所得の該当性はS56.4.24最高裁判決で示されている基準で判断することになります。参考http://ameblo.jp/kawaharakaikei/entry-11773188243.html
一方、このようなパブコメが発表されるという現状は、太陽光発電事業の事業所得該当性の問題の大きさを表していると考えられます。
ここまで太陽光発電事業を通じ事業所得の意義を考えてきました。
その1では、太陽光発電事業の中には損益通算を悪用し租税回避行為が行われているという問題提起をしました。それは租税回避目的で損失となることを求められる事業が、所得税法の事業所得に該当するのかという問題でした。
その2では、事業所得の意義を考えました。所得税法における事業所得の定義は明確ではないことが認められ、S56.4.24最高裁判例が事業所得の定義であることが分かりました。
それによれば、①自己の計算と危険負担、②営利性、③有償性、④反復継続的遂行意思、⑤社会的地位の5つが客観的に認められなくては、事業所得に該当しないことが分かりました。
その3では、S56.4.24最高裁判例に基づき、損益通算を悪用するような太陽光発電事業の損失が、所得税法上の事業所得であるかを検討しました。
その結果、損失を求める事業は営利性が認められないので、事業所得ではなく雑所得であると分りました。
その4では、太陽光発電事業の多くは租税回避目的ではなく、本来の投下資本回収余剰の獲得を目的とした事業であることを紹介しました。
結論にかえて
私は、損益通算による租税回避目的の事業は、損失であることが求められているので、それは営利性がないために事業所得に該当せず、雑所得であると判断します。
もちろん、本来のきちんとした太陽光発電事業は営利性が認められ事業所得と判断します。資源エネルギー庁の基準はナンセンスであるとも判断します。
しかし、当然のことながら、利益を求めながらも結果的に損失となる事業があります。そして、損失となることを目的としていたか否かは、客観的には判断することはできません。
問題の本質は、目的意思を客観的に判断できるか否かということかと考えます。残念ですが、税務調査がある場合には事実認定の問題となります。
せめて、太陽光発電事業のように問題の焦点となっている事業を行う事業者は、租税回避目的ではないという客観的証拠を残しておくべきだと考えます。
一方、損益通算を利用した租税回避スキームはたくさんあります。特に、組合を利用したタックスシェルターは国際的に問題となっています。裁判の焦点もスキームの事実認定となっています。
今後、機会があれば組合をめぐる事例を考えてみたいです。
(終わり)
※1 節税効果とは「エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却又は特別控除(措置法10の2の2、措置法42の5)を指していると考えられます。それは太陽光発電設備等の取得価額の全額を事業に供した年又は年度に必要経費又は損金とできる規定です(H27.4.1以降は普通償却+取得価額の30%)
※2 全量買取制度とは、資源エネルギー庁による「再生可能エネルギー固定価格買取制度」を指していると考えられます。2012年当時は36円/kwhでしたが、2014.3.10のパブコメでは32円/kwhと下がっています。http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620114006&Mode=0
※3 理由として①即時償却の効果を紹介しているが税が必ず軽減されるとは明言していない。かつ軽減される予定の税を事業計画に計算していない。②償却資産税を考慮している。③監視カメラや修繕費というような、維持メンテナンス費用を考慮している。
※4 週刊税務通信, H26.2.24, p10