【違法調査の射程】所得税法150条1項1号は「一定の帳簿書類の備付け、記録又は保存が行なわれていない場合には青色申告の承認を取消す」という規定です。また「帳簿書類の備付け、記録又は保存」は所得税法148条1項で青色申告者に対しての義務としています。それでは「帳簿書類の備付け、記録又は保存」の意義はいかなるものでしょうか?

 これについては次のような判旨があります。「所得税法148条1項所定の備付け等の義務とは、ただ単に帳簿書類が存すればよいというものではなく、これに対する調査がなされた場合、税務職員においてこれを閲覧検討し、帳簿書類が青色申告の基礎として的確性を有するものか否かを判断しうる状態にしておくことを意味する※1。」つまり、税務調査で的確性が確認できなければ「帳簿書類の備付け、記録又は保存」がなされていないということになります。
 先の事件では、結果として税務調査により「帳簿書類の備付け、記録又は保存」の的確性の存否を確認できませんでした。したがって、青色申告承認申請の取消処分は、法律の規定に基づき妥当であるところでした。これが下京税務署の主張です。
 
 ところが、下京税務署のなした税務調査は、プライバシーを侵害し任意調査として許される限度を著しく逸脱した違法調査であります。他の要件を満たしたとしても、違法調査であると、所法150①一は適用されないのでしょうか?さらに、違法調査であると、露呈した課税もれは是正する必要はないのでしょうか?すなわち、違法調査の射程はどこまででしょうか?

 京都地方裁判所は次の通り判旨しています(※2)。
1 違法調査をし、その後誠実な対応をなさないままの調査は、帳簿書類の的確性存否の確認に社会通念上当然要求される程度の努力を尽くしたものということはできない
2 社会通念上当然要求される程度の努力を尽くしていない調査である場合は、所150①1は適用できない
3 したがって、青色申告取消処分は違法である

 したがって、所法147①で「帳簿書類の備付け、記録又は保存」が「税務調査による的確性の存否が確認できる状態」をさすところ、下京税務署がなした税務調査は「社会通念上当然要求される程度の努力を尽くした税務調査ではなく」「その結果、帳簿書類の的確性の存否を確認していない」のであるから、青色申告取消処分は違法であるというロジックです。
 
 違法調査であるから、すなわち、所法150①一が適用できないと判旨していません。税務調査としてあるべき努力をしていないにもかかわらず、帳簿書類の的確性がないという判断が不穏当であるから、所法150①一が適用できないと判旨しているのです。

 それでは、このロジックから考えると違法調査の射程は所得税の課税もれに及ぶのでしょうか?(続く

※1 平成8年9月13日最高裁判所第二小法廷
※2 「任意調査として許容される限度を著しく逸脱した重大な違法行為を行ったことは前判示のとおりである。そして、そのような違法行為を行い、社会通念上納税義務者の協力を期待し得ない状態を作り出した課税庁には、以後の税務調査に際して、右違法とされる事実関係を調査し、これを相手方に説明するなど誠実に対応し、右違法行為がなされる以前の調査に対する協力を期待し得る状態に回復する努力をすることが要求されるというべきであり、右のような誠実な対応をなさないまま臨場を重ね、帳簿書類の提示を求めたとしても、帳簿書類の備付け状況等の確認を行うために社会通念上当然要求される程度の努力を尽くしたものということはできないと解するのが相当である」
 「法規上明文では規定されていない帳簿書類の不提示をもって、所得税法150条1項1号所定の取消事由に当たるというためには、課税庁の行う調査の全過程を通じて、課税庁が帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったことを要すること、右のような努力を行ったか否かの判断は、国税調査官らによる一連の税務調査の方法・態様・適否、これに対する納税義務者の対応等を総合して社会通念により決すべきであることは前判示のとおりであるから、右の限度で調査手続の違法及びその後の課税庁の対応が右のような取消事由の要件の存否に影響を与えるというべきである。」