【国税通則法改正へ】
 違法調査であれば、調査によって露呈した所得税の課税もれは是正する必要はないのでしょうか?
 答えはNOです。所法5条で居住者であれば所得税を納める義務があることなどを定めています。居住者であれば無条件に所得税の納税義務があり例外規定はありません。たとえ、税務調査が違法なものであっても、所得税の納税義務を免れることはありません。

 ところで、先の京都地方裁判所に戻ります。この裁判例から分かることは、違法調査であると「社会通念上当然要求される程度の努力を尽くした税務調査ではなく、その結果、帳簿書類の的確性の存否を確認していないのであるから、青色申告取消処分は違法」となる可能性があるということです。

 課税庁は京都地方裁判所の判決を受け入れ控訴することはありませんでした。なぜでしょうか?私は、課税庁はこの事件に勝ち目がないので、控訴上告し、仮に最高裁で敗訴となった場合には、違法調査の結果が行政処分取消理由となるという先例ができることを恐れたと考えております。
 
 平成以降、質問検査権をめぐる裁判は454件起きています。調査手法をめぐり納税者と争いになったものも少なくありません。つまり、調査が違法であるか否かというものです。

 ここで一つの疑問が生じます。違法調査とはいかなるものでしょうか?

 これまで、税の賦課や徴収が法律により明確であるにもかかわらず、申告納税方式を支える反対側面の税務調査は法律により明確ではありませんでした。旧所得税法234条で質問検査権が規定されていましたが、質問や検査の具体的な手法についてまで規定されてはいませんでした※1。そのため質問検査権の違法性の判断は判例に委ねられておりました※2。

 このたびの国税通則法改正は、まさに今までの判断基準であった最高裁判例が実定法で定められたものといえます(国通法74条の9※3)。課税庁とすれば順守すべき基準ができたことは意義があると考えます。 

 国税通則法はH25.1.1に施行されました。運用面では課税庁に相当の負担があるようで、税務調査が終了するのに、かつては考えられないくらいの時間がかかっています。そして改正国通法の是非は、今後少しずつ出てくるであろう質問検査権をめぐる判決を待ち判断するべきであろうと考えています。(終わり)

※1 旧所得税法234条1項 「国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。第二百四十二条第九号において同じ。)その他の物件を検査することができる。」

※2 昭和48年7月10日最高裁判所第3法廷判決 「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない。」

※3 税務署長等()は、国税庁等又は税関の当該職員()に納税義務者に対し実地の調査()において第七十四条の二から第七十四条の六まで()の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求()を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者()に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。
一 質問検査等を行う実地の調査(以下この条において単に「調査」という。)を開始する日時
二 調査を行う場所
三 調査の目的
四 調査の対象となる税目
五 調査の対象となる期間
六 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
七 その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項